藤平酒造『福祝』ができるまで
千葉県君津市久留里
千葉にこんなに美味い酒があったの?
日本酒を呑み始めたばかりの頃、有名どころの日本酒をいろいろ呑んでいた。
山形、秋田、新潟、福島、山口…
千葉にもいくつも酒蔵があるが、当時の僕は「どうせお土産物レベルの酒ばかりだろう」という認識だった。
今となっては恥ずかしいが、要するに、ただのミーハーだったわけである…。
ある日、和食の料理人さんから「千葉にも山田錦で酒造りをしている蔵があって、とても美味しいよ」と教えていただいた。
僕はすぐにその酒蔵の酒を手に入れて呑んで驚いた。
「これは美味い…、今までいろいろと呑んできた酒と負けてない…。」
とそれまでの認識を改めるに至った。
それが『福祝』との出会いだ。
井戸のまち、久留里
千葉県君津市久留里。
室町時代に武田信長が築いた山城『久留里城』が、久留里のベースになっている。
戦国時代には城主は里見氏に変わり、江戸時代には黒田直純が久留里藩として城と城下町の整備を行った。
久留里は清澄山系に属し、山に降った大量の雨が地中に染み込み、豊富な地下水が蓄えられる。江戸時代末期から明治にかけて、上総掘りによる井戸が多く掘られ、この水を利用した酒造業がいくつも開業された。この久留里の水は、平成20年6月に、千葉県では唯一『平成の名水百選』に選ばれている。町の至る所に井戸があり、無料で汲む事ができる。近隣住民はもとより、わざわざ遠方から水を汲みに来る人も多くいるほど美味しい水だ。
久留里の酒蔵『藤平酒造』
現在、久留里には酒蔵が5軒(久留里4軒、小櫃1軒)あるが、その一つが今回取り上げる『藤平酒造』だ。
創業は享保元年(1716年)。
年間総生産約300石。決して大きな規模ではないが、丹精込めて作られているのはその酒を一口呑めば伝わってくる。
仕込み全般を担うのは藤平典久さん
麹造りと営業を担うのは藤平淳三さん
東京農業大学を卒業して、藤平酒造に入社した河野聡さん
藤平酒造は、山田錦を中心に、精米率や製法が違うラインナップを取り揃えている。
原料である山田錦の1部は、2018年は千葉県いすみ市にて、いすみ市の酒蔵『木戸泉』、勝浦市の『東灘』の3蔵で共同で作っている。この試みは大変興味深く、3蔵が一緒に収穫した山田錦を使って、同じ山廃仕込みという製法で酒造りを行った。それでもそれぞれの蔵の特徴が出た酒になっているから日本酒づくりはおもしろい。
2019年は匝瑳市に米作りを移し、参加している酒蔵も2蔵増えて5蔵で作っている。
2018年の収穫の模様がコチラ↓
酒づくりの苦労と楽しさ
収穫から11月下旬のその年最初の出荷まで、酒づくりはノンストップだ。
“今回はどんな酒にするか?”を、典久さんと淳三さんが決める。
楽しくもあり、難しくもある重要な判断である。
典久さんは言う。
「美味い酒を作るために、毎年改良を続けています。
その改良に終わりはないですね。」
去年より今年、今年より来年、来年より再来年、と飽くなき挑戦は続いている。
今後の酒造りについて聞いてみると淳三さんは、
「毎年毎年季節によって、米の品質が違う中で、いかにして酒質の安定を崩さずに
再現性のある酒造り、ぶれない「福祝」を提供していきたいですね。」
“福祝らしさ”を損わないよいうに進化を続けていくのは、かなりシビアな事だろうと思われる。
酒づくりは自然との共存なくして成功しない。
今回撮影させていただいて、日本酒づくりは自然の恵みによるものなのだとつくづく思った。
久留里の自然と共に作った酒『福祝』。
多くの人に味わってもらいたい。
文:高橋和紀
撮影:高橋和紀・渡名喜美緒
編集:高橋和紀(『福祝ができるまで』)・渡名喜美緒(『木戸泉酒造・東灘醸造・藤平酒造による山田錦の収穫』)
『海と山と街と』編集長
(株)スカイハイプロダクション代表取締役 兼グラフィックデザイナー